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東京地方裁判所 平成11年(ワ)3885号 判決

原告 株式会社東京生活福祉協会

右代表者代表取締役 戸木田正義

右訴訟代理人弁護士 辻惠

同 藤田正人

被告 有限会社エスアンドエフ

右代表者代表取締役 住田美年子

右訴訟代理人弁護士 齋藤雅弘

主文

一  被告は、原告に対し、金一八六万四〇〇〇円及びこれに対する平成一二年六月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その二を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金九三二万円及びこれに対する平成一二年六月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告に対し継続的に健康食品を販売していた原告が、個別的売買契約の成立を主張して被告に送付した商品の代金支払を求めた前訴において、右個別売買契約の成立が否定されたことから、被告に対し、所有権に基づき右商品の返還を求める本訴を提起したのに対し、被告は右前訴で併合審理の上確定された原告に対する貸付金に基づく商事留置権を主張して右商品を占有し引渡しを拒んでいたところ、この間に右商品の賞味期限が経過し、またその後に被告が右商品は腐敗した等としてこれを廃棄処分したことが判明したことから、原告が、右商品の引渡しに代えて、被告に対し、留置権者の善管注意義務違反又は所有権侵害による不法行為に基づき損害賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実等

1  原告は、栄養補助食品の製造、販売及び輸出入等を業とする株式会社であり、乳酸球菌含有食品である「ダイヤライフ」(「本件製品」)を製造、販売している。

2  被告は、化粧品及び健康食品の製造・普及等を業とする有限会社である。

3  原告と被告は、平成六年五月三〇日、原告が製造する本件製品についての売買基本契約を締結し、以後一年半余にわたり、原告は被告に対し継続的に個別売買契約を締結して本件製品を必要数量売り渡し、被告はさらに右製品を取引先に販売していた。

4  原告は、被告との間で、別紙物件日録記載の各納品日に右売買基本契約に基づく各個別的売買契約が成立したとして、被告に対し、それぞれ同目録記載の製品を納品し(「本件商品」)、右商品の代金の支払いを求めた。被告は、右個別的売買契約の成立を争うとともに、原告に対し、原告の本件製品の供給停止による損害賠償及び本件売買基本契約に際し保証金名目で被告に差し入れた形になっている金五〇〇万円について実際は貸付金であるとしてその返済等を求めた。右両訴えは、それぞれ東京地方裁判所平成八年(ワ)第一三〇六六号売掛代金請求事件(甲事件)及び東京地方裁判所平成八年(ワ)第一九九八三号貸金等請求事件(乙事件)として係属して併合審理され(「前訴」)、平成一〇年七月二九日、甲事件については、個別売買契約は成立していなかったとして原告の請求を棄却し、乙事件については原告に対し被告主張の損害賠償及び貸付金等の返済を命ずる判決がくだされ(「前訴判決」)、同年一二月初めまでに右判決は確定した。

5  右判決の確定に伴い、本件商品の所有権は依然として原告にあることになったことから、原告は、被告に対し、本件商品の引渡しを求める本訴を提起した。これに対し、被告は、前訴判決で確定した五〇〇万円の貸金返還請求権(「本件貸金債権」)に基づく商事留置権を主張して、原告の被告に対する五〇〇万円及びこれに対する遅延損害金の支払いとの引換え給付の判決を求める答弁をした。

なお、本件貸金債権は依然未払の状態である。

6  原告は、平成一一年六月八日第二回口頭弁論において、本件商品が既に被告により処分されている可能性が強いとして、被告による本件商品の所有権侵害に基づく代金相当額九三二万円のうちその二分の一の四六六万円の損害賠償を求める訴えを主位的請求として追加した。

7  被告が、平成一一年七月一三日、第三回口頭弁論期日において、本件商品を廃棄処分したことを認めたため、原告は、平成一二年六月九日、第二回弁論準備期日において、右損害賠償請求額を九三二万円に拡張するとともに、平成一二年七月二五日第五回弁論準備期日において本件商品の引渡請求を取り下げた。

8  本件商品は、ダイヤライフ一八K(「一八K」)、同六K(「六K」)及び同三K(「三K」) の三種類であるが、いずれも、顆粒状の乳酸球菌含有食品であり、一回服用分をラミネート包装により密閉分包して小箱に詰め、これをまとめて段ボール箱に詰めた形で被告方に納入された。

被告は、右商品を、平成一〇年三月三一日までは被告の関連会社である株式会社サンファミリーが契約していたトランクルームに保管し、それ以後は右トランクルームを同社が使用する必要が生じたことから、被告の事務所に移して同所で保管していた(乙二九、被告本人)。

本件商品の賞味期限はいずれも製造日から二年間であり、六K及び三Kについては製造者であるアリメント工業株式会社からの発送日付けが右段ボール箱の側面に、それぞれ、六Kについては平成七年一一月一四日、三Kについては平成八年一月一〇日と刻印され、更に内部の化粧小箱に、賞味期限として六Kについては平成九年一一月、三Kについては平成一〇年一月とそれぞれ記載がなされていた。一八Kについては、原告が製品の小箱及び段ボールへの箱詰めを行っていたため、右発送日付けや賞味期限の刻印はなされていないが、原告が被告に対し右一八Kの商品を発送したのは平成七年一二月二五日ころであった(甲一)。したがって、遅くとも平成一〇年一月末にはすべての本件商品が、賞味期限切れの状態となっていた。賞味期限に関する右事情は、原告、被告ともに了知していた(乙三〇、被告本人)。

被告は、平成一〇年一二月二五日及び同月二八日の二回に分けて、本件商品を廃棄処分した。

二  争点

1  被告は本件商品につき商事留置権を有していたか。

(被告)

(一) 本件貸金債権は、両当事者たる原告・被告がいずれも会社であることから、付随的商行為による商事債権である。

(二) 本件商品は、原告から被告へ、本件売買基本契約に基づく納品として送付されたものであり、したがって、被告は商行為によりその占有を取得したものということができる。

(原告)

(一) 前訴判決で貸付金と認定された本件貸金債権は、本来原告と被告代表者であった住田敏和との間の貸付けとみるべきであり、最終的に被告が出捐した形がとられたからといってそのために商事債権となると考えるべきではない。

(二) 個別売買契約は成立していないとする前訴判決を前提とする以上、本件商品の被告への発送は、錯誤に基づくものであったというしかなく、右送付は単なる事実行為に過ぎないから、商行為によりその占有を取得したということはできない。

2  被告に留置権が認められる場合、留置権者たる被告は、本件商品の保管について、賞味期限を徒過させないように注意する義務を負うか。

(原告)

(一) 留置権者たる被告は、留置物の保存について善管注意義務を負うから、本件商品について賞味期限を経過する前に競売その他の適当な方法により換価すべき義務を有していたにもかかわらず、これを懈怠し右商品を無価値にし、時価相当額の損害を生ぜしめた。

(二) 留置権者の留置物に対する善管注意義務の根拠は、その保管が債権担保のためになされ、債権が弁済されれば目的物を返還すべき物的義務を負うことによるものである。無償の受寄者が自己の財産と同一の注意義務を負うにとどまるのは、その好意的性質によるものであり、無償の受寄者も一旦受寄物について留置権を主張すれば注意義務が加重されることになる。

仮に原告の本件商品の送付自体が不法行為に該当するとしても、被告において右商品について留置権を主張する以上は、前記無償受寄者の場合と同様である。

したがって、注意義務の軽減を主張する被告の主張は当たらない。

(三) 被告の主張する訪問販売法は一般消費者保護のための特別立法であり、本件とは無関係である。

(被告)

(一) 商事留置権者が留置物に対し善管注意義務が認められるのは、契約の解除や取消しの場合等一旦は正当な権限に基づき占有を取得したものであることにより、その時点での注意義務を引き続き負担することによる。本件のように原告が勝手に送りつけてきた商品については、それ自体として原告の不法行為であり、原被告間に寄託契約すら成立していないのであるから、被告が負担すべき注意義務は、一般の無償の受寄者が負担する自己の財産におけると同一の注意義務よりさらに軽微なものにとどまるというべきである。

(二) 訪問販売法においては、商品を勝手に送りつけてくる商法の場合、当該商品の送付から二週間が経過すれば、保管者が随意処分することを認めている。本件のように悪質な商品送りつけ等特段の事情がある場合には、原告が引き取りを求め得る合理的な期間(被告側が商品の違法な送りつけを通知してから約一か月)経過後は、保管義務を負わない(随意処分可能)。

3  本件商品の廃棄(賞味期限経過後)は不法行為を構成するか。構成するとして、損害が生じるか。生じるとしてその額はいくらか。

(被告)

(一) 本件商品は、賞味期限を徒過したことにより商品としての価値を失っていた上、平成一〇年八月ころから、被告事務所で保管中であった本件商品が異臭(カビ臭・ぬか臭)を発するようになり、無価値物となっていた。したがって、これを処分しても原告の所有権を侵害したことにならない。

仮に不法行為に該当するとしても、損害は生じない。

(二) 本件商品の発する異臭が他の被告取扱商品に移ってその商品価値を失わせるおそれがあったことから、そのような損害の発生を防止するためこれを処分すべき緊急の必要性があった(違法性阻却)。

(三) 前訴判決(平成一〇年七月二九日)確定後、原告から被告に対し右商品の引渡請求はなく、原告の従前の取引銀行との取引も終了していることが判明し、原告の本店所在地に事務所の実体はなく、その所在も不明の状態であったため、原告には右引き取りの意思はないものと判断した。

(原告)

(一) 本件商品は長期間の保存により腐臭を発するような性質のものではない。

(二) 原告の意見を求めることもなく原告所有の商品を廃棄したものであり、違法性は明らかである。

(三) 賞味期限経過後の本件商品の価値ないし時価については、主張・立証することができない。

4  過失相殺

(被告)

(一) 被告が本件商品を占有するに至ったのは、原告の違法な商品送りつけによるものである。

(二) 原告は、自己の請求に根拠のないことを知りながら、訴訟において無理な主張を繰り返し、原告に対する前訴判決で確定された被告に対する債務の履行も拒絶していたのであって、被告による本件商品の保管が長期間にわたり賞味期限を徒過することになった主たる責任は原告自身にある。

(三) 以上によれば、原告自身の過失は重大で、原告について一〇〇パーセントに近い過失が認められるべきである。

(原告)

被告主張の原告の過失は、賞味期限の徒過等により本件商品を無価値にした被告による違法な結果の発生に何ら因果関係を有するものではない。したがって、被告主張の事情は斟酌されるべきではない。

第三争点に対する判断

一  争点1(商事留置権の成否)について

前記第二の一争いのない事実等記載の事実によれば、本訴において被告が被担保債権として主張している前訴で確定された本件貸金債権は、商人たる原告・被告間において、原告の資金融資を目的として営業のためになされ、弁済期にあることが明らかである。そして、乙八のー、一九、二九、三〇及び被告本人によれば、被告は原告に対し右貸金債権の支払を求め、右弁済まで担保として本件商品を留置する意向を、遅くとも平成八年一〇月一四日ころ(乙一九の作成日付)までに明示していたことが認められる。

また、前訴の確定するところによれば、本件商品は結局原被告間における有効な売買契約に基づかずに被告の占有に帰したことになるが、前記争いのない事実等によれば、原告と被告は売買基本契約に基づいて本件製品の売買取引を継続的に行っていたところ、本件商品も原告が右取引の一環として個別売買の成立を主張して被告に納品したものであること、前訴においては右個別売買契約の成否が争われて結局それが否定されたものであることが明らかであり、商人間の信用取引の保護を目的とした商事留置権(商法五二一条)の趣旨に照らせば、同条における「商行為に因りて自己の占有に帰したる」物に該当するというべきである。

したがって、被告は、商事留置権に基づき、本件商品を占有していたものと認めることができる。

二  争点2(留置権者の善管注意義務-留置物の賞味期限を徒過させないよう注意すべき義務の有無)について

前記争いのない事実等のとおり、本件商品はいずれも、前訴係属中の平成一〇年一月末までにはその賞味期限切れの状態となったが、原告はもちろん被告も本件商品の賞味期間が二年間であり、遅くとも右時期までにはその賞味期限が切れることを知っていたものと認めることができる。そして、同様に前記争いのない事実等によれば、本件商品が原告にとっても被告にとっても自己使用を目的とするものではなく、商品として販売することを目的とするものであることは明らかであり、本件商品が賞味期限を過ぎれば、基本的に商品として販売するに適しないものとなり、その価値のほとんどを失うことになることが明らかであるというべきである。

留置権者は、目的物を留置することによって債務の履行を間接的に強制し、右債務が弁済されれば目的物を債務者に返還すべき義務を負うから、留置権者はその返還に至るまで留置物を善良なる管理者の注意をもって占有管理する責任を負い(民法二九八条)、したがってその価値を保全するため留置権者がとり得る適切な措置がある場合にはこれをとるべき義務を有するというべきである。したがって、留置物が賞味期限のある商品で右期限を過ぎればほとんど価値を失うことが明らかである前示のような事実関係の下では、留置権者はその価値が失われる前に競売申立て(民事執行法一九五条)等留置物の価値を保全するために適切な措置をとるべき義務を負い、本件でかかる措置をとることなく漫然と目的物を留置したまま賞味期限を徒過させた被告は右注意義務に違反したものと認めざるを得ない。

三  争点3(被告の本件商品廃棄処分についての責任)について

1  前記争いのない事実等によれば、被告は、平成一〇年一二月二五日及び同月二八日に、本件商品を廃棄処分した。被告は右理由として、本件商品から変質によると思われる異臭がしたこと、既に賞味期限も切れて商品価値がないこと、原告に引き取り意思がないと考えられたこと等を挙げ、被告本人尋問等にはこれに沿う部分がある。

しかし、賞味期限が切れたことによりその物の物理的価値が完全に失われるわけではなく、留置権者としては、前記のとおり留置物の保管の負担から逃れるためには競売申立等の手段をとることも可能であり、これは相手方に留置物引取りの意思がない場合でも妥当するから、右理由により留置権者が留置物を勝手に処分し得ると解する余地はない。また、被告主張の異臭については、前記争いのない事実等によれば、本件商品は乾燥された顆粒状のものでラミネート包装により密閉分包されていたというのであるから、これが腐敗し外に異臭を放つ事態は容易には想定しがたい。したがって、右被告本人の供述はそのまま信用することはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

よって、被告が本件商品を廃棄処分した行為は不法行為に該当するものと言わなければならない。

2  前示のとおり、被告の右廃棄処分時において本件商品は既に賞味期限切れの状態にあったのであるから、被告の右不法行為により原告が被る損害は、賞味期限切れの状態にある本件商品の物理的価値であることになる。この点、原告は、かかる価額を主張立証することは不可能である旨主張するので、民事訴訟法二四八条に基づき、当裁判所が、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき相当な損害額を検討すると、甲二、乙二一、乙三〇及び弁論の全趣旨によれば、本件商品の原価は概ね小売価格の十数パーセント、多く見積もっても二〇パーセント以下であり、原被告間の本件商品の売買は、三Kが右小売価格の三五パーセント、六Kで三〇パーセント、一八Kで四〇パーセントに該当するというのであるから、右原価は最大限高く見積もってもせいぜい五一二万円以下であることになる。右廃棄処分の時点において、本件商品は製造から既に約三年、賞味期限が切れてから約一年を経ていたというのであるから、右時点における価額はその三割(一五四万円)を越えることはないと認めるのが相当である。

四  争点4 (過失相殺-留置権者の善管注意義務違反の場合)について

留置権者たる被告が、留置物たる本件商品の賞味期限を徒過させないよう適切な措置をとるべき注意義務を負うことは前示のとおりであるが、他方、前記争いのない事実等によれば、本件商品はそもそも原告が販売する商品であって、原告もまたその品質や賞味期限等について熟知していること、原告もまた賞味期限徒過による損害を防止するべく、相当の担保を供して留置権の消滅を請求し(民法三〇一条)、あるいは留置権者が右注意義務に反して適切な措置をとらない場合には、留置権の消滅を請求する(同二九八条三項)等の措置をとることが可能であったこと、そもそも本件一連の紛争は個別の売買契約が成立していないにもかかわらず原告が被告に一方的に本件商品を送付したことによるものであること、現在に至るまで右行為に基づく損害賠償及び本件留置権の被担保債権である本件貸付金については弁済がなされていないこと、賞味期限を徒過した時点においては依然前訴係属中であり、その時点で既に留置権の主張の意向が表明されていたことその他諸般の事情及び弁論の全趣旨を総合考慮すると、右賞味期限の徒過については、原告にも相当程度の過失があり、これを八割と認めるのが相当であるから、これを原告が被告に請求し得る損害額から控除することが相当というべきである。

したがって、原告の主張する賞味期限の徒過による損害(本件商品の価値がゼロとなったこと)による右過失相殺後の損害額は、一八六万四〇〇〇円であり、これは、本件商品の廃棄により認め得る損害額(前記三)以上である一八六万四〇〇〇円であることになる。

五  以上によれば、原告の本訴請求は、右一八六万四〇〇〇円の損害の限度で理由があるから、これを認容し、その余の請求については理由がないからこれを棄却し、主文のとおり判決する。

(裁判官 手嶋あさみ)

物件目録<省略>

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